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天橋立とワシントン、そしてトランプ氏

【産業・社会研究室】 Vol.3

2016年11月14日

内外政治経済

主席研究員
中野 哲也

IMGP1471_500.jpg海抜130メートルの山上から望む天橋立

 先週、天橋立(京都府)を初めて訪れた。松島(宮城県)、宮島(広島県)と並んで「日本三景」の一つに数えられる景勝地である。近くで見ると、それは松林でしかない。だがリフトで展望台まで登ると、「龍が天に舞い上がる姿」のように見える。「虫の眼」と「鳥の眼」のどちらを使うかによって、同じ対象物なのに全く異なるイメージが頭の中に創られるというわけだ。

 先の米大統領選では大激戦の末、ドナルド・トランプ氏(共和党)がヒラリー・クリントン氏(民主党)を撃破。打ちひしがれるクリントン氏やその支持者とともに、予測を外した大方の既存メディアも敗者となった。既存メディアは「鳥の眼」で天下国家を語るのは得意だが、没落する中間層の不満を「虫の眼」で吸収したトランプ氏のほうが一枚上手だったということだろう。

 トランプ氏の支持者はツイッターやフェイスブックを駆使し、既存メディアをクリントン氏と同類のエスタブリッシュメント(支配体制)とみなして攻撃する。選挙期間中のインターネット上では、無数の「虫の眼」がクリントン氏を支持する有力新聞社などに批判を浴びせ続けていた。今回は既存メディアがソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)に敗北を喫した初の米大統領選とも言えるだろう。

 しかしながら、アメリカ合衆国という巨大国家をトランプ次期大統領が「虫の眼」だけで運営することは不可能だ。トランプ支持者の抱える不満の一つひとつをすべて実現しようとすれば「合成の誤謬」が起こり、政権は行き詰まってしまう。だから大統領は「鳥の眼」で超大国の近未来を俯瞰した上で、政策に優先順位を付けなければならない。

 その上どの政策にも、ワシントンに長年棲みつく既得権が絡んでいる。この街も天橋立と同じく、遠くから眺めると美しい。だが近くに寄って目を凝らすと、欲望がスーツを着て歩いているよう見える。来年1月、トランプ氏がホワイトハウスの主となって現実と向き合うと、案外、「普通の大統領」になるのかもれない。

PPENAVE_500.jpgワシントンの中心街・ペンシルベニア通り

(写真) 筆者 

中野 哲也

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